黒猫 サビ猫 毎日が三拍子

人生は三拍子、ときに変拍子。

薪能で黄昏る

薪能に行ってきた。三保の松原で羽衣の舞。地元では何度も開催されているけれど私は初めて。能もまだ二度目。あの独特の囃子とゆっくりとした動きがたまらなく心地いい。海の近くで、黄昏時に、薪の燃える音や匂いを一緒に感じながら能を観るというのは、な…

憧れの裏庭への小さな一歩

連休は裏庭の草取り、というか草刈り。ひたすら刈る。刈る。刈る。以前、B型事業所で働いていた頃は、利用者さんたちと一緒によくやっていたので慣れたものだ。新しい家は縦に細長くて、裏側にも空き地がある。イギリスの家にあるような「へー、裏はこうな…

ヨジングの雄弁な無表情

「王になった男」を最終話まで完走。歴史ドラマが苦手な私をゴールまで導いてくれたのはもちろん、ジャンキーでイッちゃってる王様と、素直で賢くてかわいい道化師を一人二役で演じ分けた主役のヨジング氏の魅力。というか魔力。笑う時以外は、だいだいいつ…

夕暮れ時を過ごす家

新しい家になってよかったことの一つは、日出と日没の両方を窓から眺められるようになったこと。日が昇る。日が沈む。その瞬間を窓から静かに楽しめるのは、お金はかからないけど贅沢なことだ。 とはいえ、実際にわが家でその豊かさを手にしているのは、2匹…

引越しと人生の毛玉について

先月、引越をした。それまで物はそんなに多く持っていないつもりでいたけれど、とんでもなかった。人間、生きていれば余程の意志がない限り、知らぬ間に物は増殖していくのだな。使わない爪切りが5個とか、もう観たことすら忘れてしまっていた映画のパンフレ…

「美しい庭のように老いる」ということ。

「美しい庭のように老いる」。故 宮迫千鶴さんが、2001年に出版した本のタイトルだ。副題に「私の憧れの老女たち」と記されている。1950年代のフランス人女優、シモーヌ・シニョレ、森のイスキアの佐藤初女さん、ターシャ・テューダー、沖縄のおばあたち、映…

祈りの波と、声の海

30人のお坊さんによる聲明(しょうみょう)を聴いたことがある。お寺ではなく、パイプオルガンのあるホールで。同じように「ここではないどこか」とつながるためのツールだからだろうか、グレゴリオ聖歌にも似た響き。友人が「地面から湧き出るような男声」…

美しい爪

去年の11月に亡くなった義父がまだ特養(特別養護老人ホーム)のショートステイを利用していた頃、施設利用の説明に来てくれたスタッフの一人にとても爪の美しい女性がいた。 年齢は20代半ばくらいだろうか。長い黒髪を後ろで一つに束ね、ユニフォームの水色の…

You've got a friend

NHKスペシャル「遺児たちのいま 阪神・淡路大震災 23年」というテレビ番組をみた。23年前の1月17日におきた地震で、父や母を亡くした子どもたちのその後を追い続けたドキュメンタリーだ。 大人になり初めての子を出産した直後の産院で、それまでじっと押し…

「空は青い。僕らはみんな生きている」

私は路上で知らない人から声をかけられやすいタイプの人間だ。旅先で、知らない場所の道順を聞かれることも少なくない。どしゃぶりの雨の中、住宅街を歩いていて、いきなり宗教の勧誘を受けたこともある。今朝も、アルバイトで管理員をしているマンションに…

「ずっとまともじゃないって、わかってる」

スピッツの30周年ライブに行ってきた。 初めてのスピッツライブが、記念すべき30周年のメモリアルライブの初日。 何となく申し訳ない気持ちがするが、これもご縁。チケットを譲って下さったR様、ありがとうございます。 30年間、トップランナーとして走り続…

暮らすことは、旅すること

静岡新聞社出版局から「Tabi tabi」Amazon CAPTCHAという本が創刊号された。(わたしは「海辺に暮らす人」というページを担当しました) 表紙には「近くて遠い旅をしよう」という言葉。「近い」は、シンプルに物理的に「近い」という意味だろうが、「遠い」…

白いノートを文字で埋める、という幸せもあるよね

少し前にみたNHKのswitchという対談番組で、映画監督の西川美和さんが「ノートは武装」と言っていた。 対談中でずっと、黒革のカバーをかけたB5サイズのノートを膝に置いていた西川さんが、番組の終わりに対談相手のいきものがかりの水野良樹さんから「メモ…

洗濯ものとザッハトルテと

朝起きたら、まず洗濯ものがよく乾くかどうかを確認する人生を、もう何十年も続けている。 空を見上げ、天気予報を確認し、よく乾きそうな日はそれだけで幸せになれるのだから、そんな風にちまちました幸せを重ねていく人生も悪くないと思う。 さて今日は愛…

夏の終わり、階段の途中

清掃、点検作業のため、いつものようにホウキとチリトリを手にマンションの5階の共用廊下を歩いていたら、207号室のカイトくんが、iPhoneからつながったイヤフォンを耳にさして階段の手すりにもたれかかっていた。通っている中学の夏の制服姿。そうか、今日…

ソノダさんの「お願い」

午前中だけ管理人の仕事をしているマンションの、4階に住むソノダさん(仮名)から階段ですれ違った時に、 「お願いがあるの。郵便ポストに新聞がたまっていたら様子を見に来てね。一人でこんな風に(と、両手をまっすぐに前に突き出して)、お台所の前で倒…

石けん

香りなんぞとうに消えた 使いふるしの石鹸のような気分のときは むりやりにくちびるの端を持ち上げて やんわりと笑ってみる。 不思議とこころもつられて ふんわりと持ち上がる。 香っているか。薫っているか。

まちの、灯りと。

市会議員に立候補した友だちの応援のために選挙カーに乗ったことがある。スタッフはボランティア。路地をゆっくりと、くまなく走り、小さなスペースがあると車を停め、伝えたいことを自分の言葉と声で伝えるために演説をする。そういう選挙活動だった。 同じ…

猫の手土産

もう去年のことになってしまったけれど、書いておく。 91歳で一人暮らしの義父(以後おじいちゃん)の話だ。 おじいちゃんは少し認知症が入っているので、息子である夫が食事の世話を兼ね毎日、朝晩、様子を見に行っている。その日もいつものように夫が仕事…

しあわせの可視化

「しあわせ」なんていう抽象的なものは、一体どんなものかもハッキリわからないし、もちろん目に見えるものじゃない。 けれど、誰もいない家に「ただいま」と帰りつき、猫の寝姿をみつけると、ああ、もしかしてこれが「しあわせ」というものなんじゃあないか…

川のいろ

雨の水曜日。こんな雨の朝はくるりの「ばらの花」が似合うなぁといつものように思いながら、ずいぶん昔の出来事を思い出した。 台風が直撃した日の翌朝。保護者の送迎当番で、当時中学1年の息子のバレー部仲間たちを車で、試合会場のO西中学まで送って行っ…

わたしたちは生きている

今夜はこども病院にボランティアに行く日で、ほんとは少しめんどくさかったけれど、行けば必ずそんな気分から救われるっていうのがわかってたから、行った。夜の闇に漂うベッド。何に使うのかよくわからない計器の中で、点滅する数値と小さな光が呼吸するよ…

銀の翼と赤い空

いつもの老人ホーム。91歳のAさんは、カレンダーをちらりと見てつぶやいた。「今日(6月19日)は静岡大空襲の日だね」Aさんは、静岡市の中心部、B町の生まれ。68年前の真夜中、ご両親と弟と、防空頭巾の上から布団をかぶり、浅間通り商店街の軒下を這うよう…

砂糖菓子のひとかけら

月に一度か二度、近所の特別養護老人ホームにボランティアに行っている。ボランティアといっても、なんの取り柄も資格もないわたしは、そこの住民である爺さま、婆さまたちに会いにいき、一時間ほど、ただおしゃべりするだけだ。そこで出会う人生の先輩たち…

ミルフィーユ

義母が亡くなってから、 長谷通りを過ぎてアイセルの前の道を車で通るたびに、いつもすこし涙ぐんでしまう。 その場所で、相棒のシルバーカートを隣に置き、 舗道の縁石にちょこんと腰掛け私を待っていてくれた姿をつい思い出してしまうからだ。 月に1度、…

歩く

セールスマン風のその男の人は、形の崩れた黒い営業かばんを持ち、焦点の定まらない目をして、膝を曲げ、残暑に背中を押されるように歩いていた。 訪問販売のノルマがあるのだろうか。そのノルマは、彼がどんなに努力しても達成の見込みがないのだろうか。 …

I'm home

ただいまの声がゆるりと闇に散り「変わりはないか」と猫に問う夜

孤独という、どんぶり鉢の底から

昨日は吉原kickersで下八のライブ。笑った…。そして、泣きそうになった。泣きそうになったのは、「道」って曲。ハッチさんのかく曲はなんてやさしいんだろう。不器用で、協調性がなくて、毎度毎度、孤独というどんぶり鉢の底をなめている人間の魂にきちんと…

花が咲くのを待てばいい

先週末、渋谷BYGでのハッチハッチェルバンドのワンマンショーから1週間。まだ何となくぼんやりとその余韻にひたっている。わたしがあんまり好きだ、好きだとしつこく言うせいか、彼らのことを知らない人から「どんなバンドなの?」「どこが好きなの?」とよ…

犬の玩具

病を抱えながら一人暮らしを続けていた76歳の叔父が、ついに力尽きて入院した。 もうこれ以上、治療ができないため、普通の病院ではなく、限りなくホスピスに近い看護付き老人施設だ。 たぶん、もう家には戻れないだろう。 先日、母と長兄である伯父と私の3…