黒猫 サビ猫 毎日が三拍子

人生は三拍子、ときに変拍子。

猫の手土産

もう去年のことになってしまったけれど、書いておく。

91歳で一人暮らしの義父(以後おじいちゃん)の話だ。

 

おじいちゃんは少し認知症が入っているので、息子である夫が食事の世話を兼ね毎日、朝晩、様子を見に行っている。その日もいつものように夫が仕事帰りに訪ねると、玄関先にマドレーヌの詰め合わせが置かれていた。
「これ、どうしたの?」と夫がたずねると、おじいちゃんは「猫がなぁ、飼ってくれって言って、置いていっただよ」と言う。
えっ、何だそれ。猫が自分で持ってきた?おじいちゃんのボケもついにここまで来たか。
夫も、その話を聞いた私も驚いたが、飼ってくれと自分で手土産を持って頼みに来た猫のビジュアルを想像すると何だか可笑しいし、マドレーヌも別にあやしい雰囲気ではないので、きっと誰か親戚でも差し入れてくれたんだろうと、そのまま頂くことにした。

 

数日後、同じ玄関先に、今度は袋に入ったみかんが置いてあった。
「どうしたの?」とたずねると、おじいちゃんは言う。
「猫がなぁ、飼ってくれって言って、また置いていっただよ」
「どんな猫だった?」と少し突っ込んでみると、白と茶のトラ猫だと言う。
そういえば二軒先のお宅の前辺りをいつも散歩している茶トラがいる。もしかしたらおじいちゃんは、その猫のことを言っているのかもしれない。
なんかヘンなの…と訝りつつも、脳天気な私たち夫婦はあまり深く考えずに、「おじいちゃん、すごいね。猫がおみやげ持って来るなんてごんぎつねみたいじゃん」と、そのみかんを遠慮なく頂くことにした。

 

そしてまた数日後。
謎は一挙に解けることになる。

 

その朝、夫がおじいちゃんの家を訪ねると、玄関先から猫を抱えた70代少し手前くらいのおばさんが出てきた。
おばさんは夫を見ると頭を下げ、「本当にいろいろお世話になりました」と、丁寧にお礼を言う。
わけが分からないといった風の夫の顔を見て、おばさんは説明してくれた。
ご近所の一人暮らしの老婦人が亡くなり、友人だったおばさんは、飼っていた猫の引取り手を求め、町内中を探し歩いたという。しかし、そんなに簡単に猫の飼い主など現れるわけもなく、困ったおばさんはおじいちゃんのところにたどり着いたそうだ。
「うちはアパートなので飼えないし、ご近所を回ってもどこも引き取ってくれなくて…。そんな時、こちらのお庭で飼わせてもらえることになり、たいへん感謝していたんですよ」
そう言っておばさんは、猫を抱きながら、夫にまた深々と頭を下げた。
えっ、庭で猫を飼っていた!?
あっけにとられている夫におばさんは続ける。
「でも…猫の具合が悪くて。心配なので、やっぱり私のアパートで面倒みようと思います。本当に今までお世話になりました」
夫がおばさんの抱いた猫に目をやると、両目には目ヤニらしきものがこびりついている。
確かにあまり元気ではなさそうだ。
そして猫は、白と茶のトラ模様だった。

 

おばさんが帰っていった後、夫が庭を見回すと、庭木が伸び放題で枯れ葉やガラクタが散らばった片隅に、ダンボールの「猫の家」があった。
おばさんがつくったのか、おじいちゃんがつくったのかは定かではないが、その猫ハウスには風呂のフタで雨よけの屋根もつけられ、ちゃんと水とエサ入れも置かれていた。私や夫がまったく気づかないうちに、茶色い猫はそこでしばらく暮らしていたらしい。
おじいちゃんの発言は、妄想でもボケでもなかったのだ。
ただ、ちょっと言葉の言い間違いがあっただけで。

「猫飼ってくれって言っておじいちゃんのところにお菓子を持ってきた」んじゃなくて、「猫飼ってくれって言ってお菓子を持ってきた」んだよね…。
そして、その前に主語の「おばさんが」が抜けてたんだよね…。
確かに「ちょっとした」間違いだけど、それはとっても大きな違いだったよ…おじいちゃん…。

 

おじいちゃんの家には、まだ猫ハウスがそのままにして置いてある。
そして私は、今度はどんな猫が手土産を持ってそこの住人になるのかひそかに楽しみにしている。

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